クッキーは焼かない

クッキーは配るもの

戦慄!文鳥・おじいさん・僕による春の大三角形!

 

 

今日は、なかなか、バスが来ませんでした。

と書くとなんか普通の日記ぽくてよくないですか?という提案をばあちゃんはしたい。小学生の日記みたいでいい感じだ。牧歌的に生きたいよね的ヴァイヴス。うぇ~い。

 

ちょっと前に買ったワンピースがあって、それがばあちゃんすごくお気に入りだった。でも着すぎたせいか、もともと縫製が雑だったのか、肩口の部分の糸が取れてしまって穴が空いてしまった。悲しい。でも棄てるのも嫌で、街にある服を修繕してくれる店に出したのが約1週間前である。環境に優しくしていくばあちゃんは流行にのっているね!で、それを取りに行く日が今日だったんですよね。

でも冒頭に書きましたけど、マジでなかなかバスが来ない。バスって遅れるものだけど、それにしても来なかった。私なんかしたァ?もしかしてばあちゃんが待ってるから来てくれないのでは……?前世の業……?的被害妄想にこの身を焼きながら待ってたんだけど、それでも来なかった。20分くらい来なかったんじゃないか?ええ……。資本主義の敗北か……?(適当)

で、なんかもう嫌になっちゃって、まあそんだけ待ってたら嫌にもなりますよね、でもこれだけ待って今さら家に帰るのも癪だし、スマートばあちゃんは地面に座って、道端にあった石でもってして、落書きを開始してしまった。いや、だって、なんか落書きに使えそうな軽石が転がっててぇ……水かけたら消えるしぃ……いいかなってぇ……、通報しないでください!通報しないでください!もし通報する気ならせめて最後まで読んでからにして!それでも遅くない!

で、何を描こうかな、としばらく悩んだけど、「一応公道だし牧歌的な絵でも描こう」と思ったばあちゃんはギリギリ理性の人である。しばらく考えた末、昔飼っていた文鳥の絵を描くことにした。丸っこいもちもちフォルムにクリクリの目、おっきいくちばし。「あ~ん♡ちよちよさん(昔飼っていた文鳥の名前です)かわいいですわ~~~~♡」と1人で悶えながら文鳥の絵を量産していたら、知らないおじいさんに話しかけられた。アッ、これは怒られるタイプのやつだ!31歳になって知らんおじいさんに説教されるのか!31歳ってなに!?!?と思って、ばあちゃん赦してくんなましモードに突入だったのだけど、散歩中みたいな感じのおじいさんは「そりゃ鳥と?」とだけ訊いてきた。怒られへの恐怖から「アッ、ブンチョウデス」と片言で挙動不審気味に答えるばあちゃんを尻目に、おじいさんは私も昔文鳥を飼ってたんだけど可愛いね的なことを言ってくれた。怒られの不発だ……。これが……救いですか……?

で、バスも来ないし、そのままおじいさんと話してたんだけど、その時聞いたおじいさんの話が何かものすごかったので共有したい。これを1人で抱え込みたくないんじゃ……。ていうかバスは異次元にでも迷い込んでたのか。

 

***

 

おじいさんが子供の頃、おじいさんのお父さんが文鳥をたくさん飼っていたらしい。白文鳥も、並文鳥も、桜文鳥も飼っていて、お父さんは家の一室をわざわざ文鳥専用の部屋に改造して、当たり前だがその部屋にはわんさか文鳥がいて、おじいさんもかわいがっていたようだ。さて、一般に文鳥は1羽で飼うと人間に激しく懐くけど、複数個体を一緒に飼うと(1羽で飼うときと比べてだけど)人間にそこまで懐かない。子供だったおじいさんはそれが嫌だったらしく、ある日1羽の並文鳥を残して後の文鳥を全て窓から逃がしたらしい。そうすれば残った1羽は自分にたくさん懐いてくれるみたいな、子供の考えそうなことである。かなりの数の文鳥を逃がした後で(おじいさん曰く10羽以上逃がしたとのこと)、おじいさんは自分がヤベーことをしちゃったことに気付いたらしい。これも子供あるあるだよね。

で、確実にお父さんに怒られると思って(そりゃそうですよね)、自分の部屋にこもって、仕事から帰ってきたお父さんが文鳥部屋に入る音を聞いてヒエヒエしていたそうな。でもしばらく経って文鳥部屋から出てきたお父さんは怒らなかったそうだ。お父さんはビクビクしてるおじいさんを心配してきて、おじいさんは疑心暗鬼に陥り、文鳥が1匹だけになっている理由を自らゲロった。でもお父さんは「何を言ってるんだ、文鳥はもともと1匹だっただろう」的な事を言ったらしい。

 

***

 

僕「え、なんすか、なん、その話!?!?」

おじいさん「なんやったんやろうねぇ。ばってんそん後1羽残した並文鳥もいつん間にか消えてしもうたっちゃんね。」

僕「ピャッ!?!?!?!?」

いや怖すぎない?何でそんな話を見ず知らずの私にした!?!?と戦くばあちゃんを無視しておじいさんは話を続けるもんだから、ちょっと私の存在を無視しないでください!になった。なるでしょこんなの。ほんわかした見た目のおじいさん(しかも全く知らん人)が急に怖い話してきたら誰だってそうなるでしょ。ばあちゃんだってそうなる。

 

***

 

で、まあ、おじいさんがしてくれた話を(すごく雑に)最後まで書くと、その後1羽残っていた並文鳥までもが消えた後、いつの間にか文鳥用だった筈の部屋は物置に変わっていて、家族全員「文鳥なんか飼ったことない」と主張して、「家には文鳥がたくさんいた」派のおじいさんは病院に連れて行かれかけたらしい。でもなんやかんや結局連れて行かれなかったらしい。

 

***

 

「消えた文鳥たちは一体どこしゃい行ってしもうたっちゃろうねぇ。ばってん、うちん家ん物置からたまに文鳥ん鳴き声が聞こえるけん、そこしゃいおるとかな。あんたん家にもおるかもしれんしね。」と地味にメチャクチャ怖い事をガチガチの博多弁でのんびりぼやくおじいさんを目の前にして、いやだからなんでそんな話私にするんですか……。バスが来ないのが悪いんでねえか、私が文鳥の落書きを公道にしたから、天罰が……もしや、このおじいさんは天の使いなのか……?そう悶々と考えていたら漸くバスが来た。「アッ、バスガキタノデェ……」とモチャモチャ言いながら落書きにペットボトルのお茶をぶっかけて消し、急いでバスに乗ったんだけど、なんだったんだろうね、あの話。文鳥……消えた文鳥たち……おじいさん……そして……僕……。という感じで嘘か本当か分からないおじいさんの謎話について考えながらバスに揺られ、街に着き、ワンピースを受け取り(綺麗になっていました)、地下にあるスープストックと~きょ~でカレーのセットをモッチモッチと食べ、食べながら脳に浮かぶのは文鳥、おじいさん、そして僕。この春の大三角形を如何にして処理すれば……。私はこの話の一体どこにいるんだ……。三角測量ですか……?三角測量すればいいの……?

 

というのがことのあらましである。おじいさんは文鳥を消す能力者だった……?

まあ普通に考えれば、おじいさんが私をからかおうと思って作り話をしたのだろうけど、なんか安易にそうも思えないんだよね。だって、何をもってしておじいさんの話を嘘だと言えばいいんだ?これが分からない。

エビデンスもない他人の個人的な話を一方的に嘘だと断定するのはなんだかよくない気がする。そんな気がしません?ばあちゃんはそんな気がする。それに、これは私しか分からないことだけど、嘘吐いてる感じもしなかったんだよな。なんというか、「昨日の夕飯に○○を食べた」みたいな話程度のさらっとした話し方で、どうも嘘を吐いている感じがなかった。その上、嘘だろうと本当だろうと実害が全くないタイプの話である。そういう系の話って更に真偽を追求する気にならないというか。ていうか、おじいさん最後の方で「あんたの家にも文鳥いるかもね」つってたけど、僕の家の物置に文鳥がたくさんいたら嬉しい……普通に……。文鳥……可愛い……。もちもち……。むしろばあちゃんの家に文鳥いてくれ……。なので怖い話としても成立しない。だって家に可愛い文鳥がたくさんいるって、なんかもう、こう、もう可愛いじゃん!(ボキャブラリーの貧困)

だから僕にはおじいさんの話が嘘か本当か分からないし、嘘か本当か断定することもしたくない。これはこれで面白いしね。私に分かっているのは、このブログ記事の内容が1から10まで全部作り話ということだけである。僕はワンピースの修繕なんて依頼してないし、バスも待ってないし、公道に落書きもしていないし、ちよちよさんという名前の文鳥は飼っていなかったし、街にも行っていないし、スープストックと~きょ~でカレーのセットも食べていない。僕に話しかけてきたおじいさんもいない。

でも、虚構おじいさんの話の真偽は今も不明だ。