クッキーは焼かない

クッキーは配るもの

朔太郎と僕

 

 

萩原朔太郎が、
はぎわらか
おぎわらか
たまに分からなくなるんだ

僕は、古い皮膚の擦り切れた指先で
本のページを数千捲っても
だらりと垂れる髄液が手を伸ばす脳髄に
美しい知識と物語と言葉を注いでも
その時何をしていたとしても
酢酸エチルに眠る死んだ蝶の匂いが
展翅板に染み入って息を吹き返すように
萩原朔太郎が、
はぎわらか
おぎわらか
たまに分からなくなるんだ

はぎわらだったと
一体何度確認しただろう
この下らない人生の合計何分かを
はぎわらか
おぎわらか
朔太郎に捧げても
朔太郎は何時だって
僕の萎み縮まるしか道のない生を拒絶して
逃げていく
まだ足りない
まだ足りないと
美しい言葉と共に去っていく

朔太郎の後ろには
丸い大きな白い月
萩原朔太郎よりも中原中也の方が好きで
中原中也よりも西条八十が好きだ
そんな僕の心内が
白い月の光を反射して
朔太郎の背中を這い回るから
僕の心は百足の脚
ざらりとしたフィルムの夜を生きる節足動物
だからきっといつまでも
萩原朔太郎が、
はぎわらか
おぎわらか
たまに分からなくなるんだ

 

 

***

どっちが正しいのか定期的に分からなくなります。